日本が2050年カーボンニュートラルを実現し、それを成長の機会として捉え、産業競争力を高めていくためには、国際ビジネスで勝てるような「企業群」が、自ら以外のステークホルダーも含めた経済社会システム全体を変革(GX:グリーントランスフォーメーション)することが重要と言われています。

今回は、日本における脱炭素化施策、GX移行債とは、GX移行債を発行するメリットや懸念点について、解説します。

 

1.GX移行債とは?

まずは、GX移行債についてご説明します。

まず、GXですが、これは、「グリーントランスフォーメーション」のことで、大量の温室効果ガスを排出する化石燃料などから、再生可能エネルギーや脱炭素ガスなどへの転換を図ることで、経済・社会のあり方を持続可能なものに変革していくことを意味します。

つまり、GX移行債とは、そのGXにつなげるための新国債です。

今まで、グリーン社会の実現に向けた取り組みとして、これまでにも2兆円の基金導入や過去最高水準の最大10%の税額控除、エネルギー政策の推進、グリーン成長戦略の実行計画などが試みられてきましたが、2022年5月19日におこなわれた「クリーンエネルギー戦略」に関する有識者懇談会」で、岸田首相が新たにグリーンボンドの一種である「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債(仮称)」を20兆円程度発行することを検討していると発表したことで明らかになったものです。

 また、7月27日、脱炭素社会への移行に向けた政策を検討する「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」(議長・岸田文雄首相)の初会合が首相官邸で開かれ、政府が支出する20兆円を調達するために新設する国債「GX経済移行債(仮称)」の制度設計を進めことや今後10年間の工程表を年内に取りまとめること等が話し合われました。

 

2.GX移行債を発行するメリット

続いて、GX移行債を発行するメリットをご紹介します。

主なメリットは3つあります。

①脱炭素に関係する投資額の確保

日本の脱炭素に関連する投資額は、今後10年間で官民合わせて約150兆円と試算されています。そのうち、政府の投資分に当たる20兆円規模の資金を、政府は新たに確保する必要があり、それをGX移行債で補うことができます。

②環境問題への意識が高い投資家から資金調達できる

投資家の中にはリターンの大小ではなく社会貢献度を基準として投資先を選定する人・機関もいらっしゃいます。GX移行債を発行することでそのような人・機関から資金調達が可能となります。環境問題などGXへの取り組みを重要視している人(起業家)・企業などにとっては、絶好の資金融資先になります。

③企業のイメージアップ

GX移行債が発行され、その後、調達された資金は、原則として、GXに貢献する事業にしか使用できません。そのため、GX移行債を保有していると、日本の環境問題などGXに取り組んでいる姿勢を社会に示すことになります。

とくに日本は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという国家戦略をかかげ、官民挙げてその目標に向かっている最中ですので、環境問題などGXへの取り組みは国民に好意を持って受け取られ、イメージアップにつながります。

 

 

3.GX移行債を発行する懸念点

最後に、GX移行債を発行する懸念点をご紹介します。

現在までに、国債を大量に発行している日本政府は、通常と異なるGX移行債(国債)を発行し、国債の多様性を高めることを通じて、円滑な国債消化を目指すという狙いもあるようです。

しかし、別枠の国債として発行する際、その市場規模が限られることが流動性の低下につながりことや、市場のボラティリティが高まること、あるいは流動性リスク分だけ逆に通常の国債よりも金利が高くなってしまうこと、といったリスクも生じ得ることがあります。

つまり、それは政府の資金調達コストを高め、結局、追加の国民負担となってしまうことです。

こうした様々な点を踏まえると、GX経済移行債については、その必要性、設計などを再度慎重に議論したうえで、最終的に発行の是非を決める必要があるという意見や、できるだけ早期にカーボンプライシング制度を導入し、炭素税、排出量取引、クレジット制度の設計を急ぐ方が、日本の脱炭素社会への移行を進めるためにはより重要といった声もあるようです。

今後の、国を取り巻く脱炭素化の動きには引き続きご注目ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。